凍える鏡
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親にはぐれた子どもたちは、どこで冬を越すのだろう?

一見、何の不自由もないように見えるこの時代。しかし、物質的な繁栄とは裏腹に、人が人の心を失ったような陰惨な事件が連日のように報道されています。中でも痛ましいのは、親が子を殺し、子が親を殺すという近親者による殺傷事件でしょう。文字通り血を分けた分身とも言うべき親と子が、仇のように殺し合うという構図は一体何に由来するのでしょうか?

本来、親(特に母親)の愛情はunconditional love(無条件の愛)と呼ばれ、幼児はそれを一身に受けることで、安定した自己を育てていくことができました。しかし、いつしか親の愛情も打算的になり、「いい成績を取るなら」「言うことを聞くなら」と、条件付きでしか子どもを愛せない親が増えているようです。また、心よりも物質的なものを重視し、金銭的に不自由させないことが子どもへの愛情のあかしと考える親も少なくありません。もはや現代の親子を結びつけるものは、情緒的な「絆」ではなく、打算的な「契約」に成り下がっているのです。そういう関係はたえず緊張に満ちていて、たとえ殺し合うところまではいかないにせよ、どこかで爆発する可能性が高いといえるでしょう。また、幼児期に充分な愛情を注がれなかった子どもは、思春期以降も精神的に不安定で、神経症や人格障害に罹患しやすいのというのは精神科の臨床データを見ても明らかです。親が子どもにとって絶対的な存在でなくなったこの時代に、人は何をよりどころに生きていけばいいのでしょう。

この物語の主人公・瞬は、子どものような純粋さと絵の才能を持ち合わせながら、幼児期に母親から受けた虐待によって、その精神はひどく傷ついています。彼は、偶然知り合った童話作家・香澄と心を通わせ、その娘・由里子のカウンセリングを受けることになりますが、治療者のはずの由里子もまた、母親である香澄に対し、根深いわだかまりを持ち続けているのでした……。
万能なる母、大地の母。心理学では、母親は子どもが成長していくための「鏡」にたとえられます。しかし、その母が、まるで氷のように冷たく、すべてを凍えさせてしまう存在だとしたら?

「凍える鏡」は、もはや親から「無条件の愛」を与えられることのなくなった現代人の孤独とそこからの回復を、ひと組の母子と青年との関わりを通して描き出した21世紀の寓話です。

主演は、映画「包帯クラブ」やテレビドラマ「僕の歩く道」「牛に願いを」などで成長著しい若手俳優・田中圭。これまでの等身大の好青年役とは一線を画した、心に闇を抱える青年・瞬を繊細かつ大胆に演じ、新たな魅力を見せてくれます。瞬をグレートマザーのように包み込みながら、実の娘には別な顔ものぞかせる童話作家・香澄を好演するのはベテランの渡辺美佐子。「いつか読書する日」「東京タワー」など近年も多くの映画に出演し、この作品が記念すべき百本目の出演作となります。また、娘の由里子には「犬、走る」「閉じる日」などの映画をはじめ、舞台でも活躍がめざましい冨樫真が扮し、現代の悩める三十代女性をリアリティ豊かに演じています。そして監督・脚本は、家族の崩壊と再生を描いた「カナカナ」「火星のわが家」が内外の映画祭で高い評価を受けてきた大嶋拓。まさにこれまでの集大成とも言うべき秀作の誕生です。